タイニーハウスピリオディカルズ

タイニーハウスピリオディカルズ|30代で脱サラして小屋暮らしに挑戦するブログ

本にまつわる話

極私的トンデモ本あんないLITE

2017/04/16

 

はじめに

トンデモ本とは、飛躍した論理で、論証や考証の杜撰なフィクションなどを含む本のこと。超常現象、陰謀論など。
この記事では特に歴史ミステリーのトンデモ本について書いています。


トンデモ説の例:青森にキリストの墓

青森に戸来(へらい)という名前の村がある

ヘライはヘブライに由来した名前

実はキリストは、はるかイスラエルの地からはるばる日本までやってきていて、現在の戸来村で亡くなっていた!

墓もあるよ!

 

 

わたしの父は人文学系の書籍──とりわけ歴史と考古学が好きで、なかでも歴史ミステリーといったジャンルを好んで読んでいて、だから昔から父の本棚にはそういった手あいが多く並んでいました。

小学生だったわたしも、気がつけば「世界不思議百科」(コリン・ウィルソン、ダモン・ウィルソン著)なぞいう歴史ミステリー本を勝手に引っ張り出してきては、むつかしい漢字をとばしとばし読んで胸躍らせていました。


じっさいこの「世界不思議百科」には夢中で、何べん読んだか知りません。 

自然、幻獣、歴史、事件、超自然、超心理の6つの章から成り、いわゆる世界のナゾ界のメジャーどころがきっちり抑えられていますので、ナゾ初心者にはうってつけの入門書だったのです。


当時わたしのお気に入りだった謎を挙げてみますと、

オルフィレウスと永久運動機械

ツタンカーメン王の呪い

トリノの聖骸布

モナリザはどこにいる

ヴォイニッヒ古文書の謎

サンジェルマン伯爵は不死の男

聖杯発見レンヌ・ル・シャトーの財宝

・孤島の埋蔵金…財宝を埋めたのは誰か

孤児カスパール・ハウザーはどこから来たのか

島から人間が消えた…アイリーン・モアの謎

(タイトル表記は本のまま)

 

タイトルだけでもわくわくしますよね!

「カスパー・ハウザー」などの映画にもなった有名なエピソードもありますし、本にはここに挙げたナゾ以外に数十個のナゾが紹介されてます。


さらにこの本には「世界不思議百科 総集編」という名前の続編がありますが、こちらはそれほど心躍る不思議はなくて、わたしは一作目専門でした。

こんな具合に「世界不思議百科」によって不思議の世界と出会った訳ですが、思えばそれより以前に、アサヒグラフかなんかの出した写真集にマチュピチュやモアイ像、テオティワカン、アンコールワットといった花形の古代遺跡を集めたものがあったのを、何故か怖しいものでも見るかのように、ページの端を摘んで繰っていた記憶があります。

しかし幼いわたしの心をぐッとわしづかみにしたのは、古代遺跡などの現実的な不思議ではなくて、ヴォイニッチだとか聖骸布だとかいう素直に首肯できないような話のほうだったのでした。


そんな様子をみた父が気を利かせて「ムー」というトンデモ雑誌を買ってきてくれたのですが、さすがのトンデモ好き小学生でも「ムー」から漂うそこはかとない胡散臭さに耐えかねて、半年ほどで購読を止めました。

それにしても雑誌ムーって、未だに発行しているんですね…。
しかも鳩山由紀夫夫人が連載を持っていたとか…。

 

さて、こんな具合にだらだらと私的トンデモ本史を書き連ねていくのもなんですので、話は一気に現在までとびます。


先日「明石散人」の名前を図書館で見つけて、つい借りてきてしまいました。

明石さんの著書は、エッセイ風の短編から長編物語、対談モノまでさまざまありますが、どれもなかなかのトンデモ具合です。

それらの作品はだいたいが明石さん独自の「新説」を披露するもので、つまり、基本的に誰もが知っている出来事や歴史の定説を、空想と思いがけない視点でもってぐるりと覆す話なんですが、その著書のなかで、

「新説を出すときには根拠となる新資料がなければ絶対に認めてはならない」

と書いているとおり、彼の「新説」を支える数多の資料を駆使しての説明に、歴史観のない私なんぞはころりとやられてしまいます。

それでも「鳥玄坊シリーズ」(と呼ばれる一連の著書があるのです)なんかの滅茶苦茶な展開には、さすがに幾度となく本を投げそうになりました。

面白い箇所もあるので最後まで読みましたけど。

明石さんは、歴史の定説をくつがえす彼の著書というのは、自身の創造した「歴史ゲーム」であるとし、また、「素人の参入を決して認めないアカデミズムは狭量である」と断じています。

それゆえに平成12年に出来した藤村新一さんによる「旧石器捏造事件」を、明石さんは絶賛しています。

いわく、
「あの事件は藤村さん自ら創造したゲームで、完全にアカデミズムをだました」もので、また、「アカデミズムの限界をたった一人で見切り、ものの見事に歴史を覆してしまった」、しかもその幕引きも自ら行ったものであると述べています。(「日本史快刀乱麻」)



そんな明石さんの著書のなかでも私のお気に入りで、既に何度か読んでいるのが「7つの金印」という話です。

いわずと知れた、志賀島から出土したとされる漢委奴国王印ですが、これが実は出自から一級資料から、果ては印自体もマユツバもの、すべてゲームであるという突飛な内容ですが、不思議なもので、印影や文書を丁寧に紐解かれると、うそかまことか、すっかりつままれてしまうんです。

 

で、今回図書館で借りたのは、「龍安寺石庭の謎・スペースガーデン」(タイトルからすでにやばい)で、考えてみればこれもむかし父の本棚から拝借して読んだ記憶があります。

奥付を見ると1996年版を底本に2013年に再編集したものらしいので、地味に人気のある本なのかも知れないです。


さて枯山水で有名な龍安寺の庭ですが、じつは作庭したのが誰なのか確かなことは分かっていません。

それゆえ15個の石の配置や白砂に込められた意味、庭を囲む油土塀の傾斜なども「謎」とされ、後世の人たちを愉しませることになりました。

ジョン・ケージ(作曲家)に至っては、石の配置を譜面に重ねた「Ryoanji」なる曲を作るおもしろい試みをしています。


で、この明石さんの本では、庭石の配置について一般的に唱えられている「心の字配石説」「七五三説」「虎の子渡し説」などをあっさり斬って、新説を聞かせてくれます。

また、石は実は15個ではなくてもともと14個だったのが、江戸期の火事でひとつ割れて15個になった…だとか、その江戸期の火事以前の石庭には白砂は無くて、14個の石と、一面の糸桜(シダレザクラ)の庭だった、というようなことも言ってます。
(これらの説も、資料を提示して懇々と説明してくれますので、読めば「うーんそうなのかも」となりますよ!)

余談ですが明石散人さんは、京極夏彦さんのお師匠さんだそうです。
京極さんの著書にも明石さんがチラッと登場しています。

 

ついでに明石さん以外の歴史ミステリー系トンデモ本(最近のは知りませんので、古いものばかり)を、いくつか紹介しますと…


トンデモ系といったらきっと叱られるであろうこの人…梅原猛さん、梅原さんの法隆寺の話とか(「隠された十字架」)面白かったです。
本来はまったくの新説を論ずる内容ですが、読み物として引き込まれました。

発表当時梅原さんの説は一笑に付されましたが、現在では学者さんにも支持する人が増えたというので、一読の価値ありかと思います。


ライトなトンデモ本で思いつくのは、かなり古い本ですが、「邪馬台国はどこですか?」(鯨統一郎 著)。

バーで出会う3人の男女が、カウンターで酒を飲みながら数かずの歴史ミステリーを斬新にひも解いていく内容ですが、ファンタジーに近いかもしれません。

歴史ミステリーとしては内容のお粗末さに批判も多いようですが、この上なく気楽に読めますので、まずは・・・の一冊に。
ほんとは「世界不思議百科」がおすすめですけど。

 

あとは良く売れたところで井沢元彦「逆説の日本史〈1〉古代黎明編―封印された「倭」の謎 (小学館文庫)」シリーズとか、グラハム・ハンコック「神々の指紋 上<神々の指紋> (角川文庫)」、ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)」など、やりすぎなものから映画化された物語まで、歴史ミステリーは幅が広すぎます。


それから元祖トンデモといえば、イマヌエル・ヴェリコフスキーの 「衝突する宇宙」が挙げられるでしょうか。


ヴェリコフスキーの説は全然認められていないそうですが、当時彼が世界に与えた衝撃はすさまじく、彼の著作に対して6巻におよぶ検証本が出されたほどでした。


そして今わたしは、話題の「サピエンス全史」を読んでます。

文明が発達するほど、我々は不幸になっていく。なぜならその文明は「虚構」の上にもたらされたからだ──。

こう説きながら人類の歴史をマクロな視点から鮮やかな語り口で展開し、世界的ベストセラーになった『SAPIENS』。

世界中の主要メディアから称賛され、ジャレド・ダイアモンドなど歴史家、ダニエル・カーネマンなど経済学者、さらにはビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグらも先を争うように熟読した本書が、ついに『サピエンス全史(上・下) 文明の構造と人類の幸福』として翻訳出版された。(クーリエジャポンより)

ところでこの手の本を私が好きなことは、初読の物語の結末を先に知ってしまってもわりと平気なこととか、「読者の想像におまかせします」的な、もやもやした結末が苦手なことなどと大いに関係していると思います。

 

私は「不思議」が好きです。

でも、謎があるから「不思議」であるのに、わたしはその謎が謎であることが気に入らないのです。

ある程度筋の通っていると思われる説明で、すっきり謎解きしてほしいのです(あまりに荒唐無稽なのは、だから読みません。真剣な歴史ミステリー本が好きです)

 

勝手な想像ですが、ゴルゴ13が好きな人は、おそらくこの手の本が好きであると思っています。

-本にまつわる話