脱国家的、逃避農業のすすめ
2017/02/09
「定住」って、意外と新しいライフスタイルだというのはご存知ですか?
新人類と呼ばれる、現在の人間とおんなじような人類が出現したのが約20万年前といわれていますが、人類が定住をはじめたと考えられているのは約8000年前です。
19万年ものあいだ、人類は転々として暮らしていたんですから、「定住」の歴史は浅いものですよね。
定住したから権力がうまれ、そして国家が誕生したという説があります。
国家は支配する領域の住民をつかまえて、税金や財産を収取するようになりました。
ここで、定住=税の収取を通した権力による支配=管理・監視された社会 という図式が成り立ちます。
現在、南極を除く地球上のすべての土地はどこかの国のもので、その土地に住むものはどこかの国の人であると思われています。
ところがです。
この現代に、国家に束縛されない生活をしている人びとが存在するというのです。
東南アジアの大陸部の山岳地帯にいる、「高地民=ゾミア(ZOMIA)」と呼ばれる人びとがそれです。
ひとくちに東南アジアの山岳地帯と言っても、ベトナムーラオスーカンボジアータイービルマー中国南部にまたがる丘陵地帯で、その面積はだいたい、ヨーロッパと同じだというんですから、いかに広大なのかわかります。
「ゾミア」について書いたジェームス・スコットによれば、そこは「世界最大の無国家空間」なんだそうです。
そしてゾミアは「逃避農業を営む、国家を持たない」人びとだといいます。
ゾミアについての詳しいことはジェームス・スコットの著書にありますので、ここでは「ゾミア的 脱国家のためのオススメ農作物」を紹介していきたいと思います。
※この記事の一番最後にゾミアについて簡単な紹介が書いてあります
脱国家としては、いかに国家から奪取されないように作物を収穫するかがいちばんの課題です。
第二に、高地でも、痩せた土地でも育つ作物であること。
第三に、放置していても保存ができることが重要です。
1、ヤムイモ、サツマイモ、ジャガイモ、キャッサバ、タロイモ
これらの根菜類、塊茎類は、奪取に対してはほぼ安全。
2年くらいまでなら、そのまま土の中に安全に置いておけるし、必要に応じて簡単に収穫できます。
ヤムイモはタロイモよりも害虫や菌に強く、適応環境が広く、ほったらかしで育ちます。
逃避農業におすすめなのは「キャッサバ」。
キャッサバは、スペイン語圏では「ゲリラの穀物」と呼ばれていました。
最小の労働力で最大の収穫が得られるのが最大の利点。
どんな生態的環境でも育てることができ、粉末にすれば保存が利きます。
粉末は市場でタピオカとして売ることができます。
植えたあとそのままにして、2-3年後に戻ってきて掘り起こすことも可能。
育てるよりも生育を止めるほうが難しいくらい旺盛。
イノシシもあんまり好みません。
ただし標高が高い場所では、トウモロコシやジャガイモのようには育たないのが難点。
じゃがいも:標高4200メートルまで作付け可能
キャッサバ:標高2000メートルまで
2、トウモロコシ
こちらも逃避農業おすすめ穀物。
むしろトウモロコシがあったからこそ、稲作を捨てても高地で生きていけたと言えるゾミアのための植物です。
・標高の高い場所でも育つし、保存性が高いので、逃走に役立つ。
・異常気象でも良く育ち、栄養価が高い。
・ほとんど手がかからず早く成熟するため移動しやすいので、国家を寄せ付けにくい。
国家支配から逃れるにはおあつらえむきの穀物なのです。
トウモロコシ:標高3600メートルまで
3、麦・大麦・生育期間の短い雑穀・ソバ
これらの穀物類は、栄養の乏しい土地や、高地に耐性があります。
また生育期間が短く、保存性が高いことも逃走には有利です。
ある程度の作付け面積が確保できる場合に有効。
4、キャベツ・カブ
栄養の乏しい土地や、高地に耐性がある。
生育期間が短い。
緑の野菜は有難い存在ですが、ただし保存性が高くないのが難点。
5、ピーナツ・バナナ
ピーナツは保存性が高い。
地中に育つので、奪取から安全。
ほったらかしで育つが、低地向けなのが難点。
バナナは保存性に欠けるが、手をかけなくてもたわわに実る点が高評価。
ヒマラヤなどの高山地帯でも育つ種はあるけれど、主に熱帯地方限定。
ピーナツ:標高1500メートルまで
バナナ:標高1800メートルまで
ここまで、ゾミア的 脱国家のためのオススメ農作物 BEST 5 を紹介してきましたが、土地を選ばず、手が掛からなくて、保存も可能な作物は、畑仕事から逃避しがちな私にとっては魅力的に映るのでした・・・
ゾミアに暮らしているのはどんな人びとなのか、最後にちょっとだけご紹介します
ゾミアの人口は8000万人から1億人と推定されています。
けれども数百の少数民族の集団と、少なくとも5つの語族に分かれているので、ひとくくりに「ゾミア人」とするような乱暴なことはできません。
1500年以上にわたってこれほど多くの人々が「国家の勢力圏外=山地(ゾミア)」に移った原因は、低地での国家によるさまざまな苦痛にありました。
苦痛とは、賦役、徴税、兵役、戦争、家族の継承をめぐる係争、改宗など、国家の形成に直接かかわる事柄です。
ゾミアの人々は、そういった国家の枠組みに対して抵抗を続けてきた人々であり、またゾミアとは、たんに低地国家に対する抵抗の地であっただけでなく、国家からの避難先でもあったのでした。
これらの人々は見境なく国境を越えて散在し、それぞれの土地で民族・言語の複合的なアイデンティティを創り上げています。
また彼らは、預言者の指導のもとに、田畑と家を捨てては新しい共同体をまたたくまに形成する逃避能力を身につけています。
これをジャン・ミショーは「ノマディズム」と表現しました。
低地民はゾミアのことを「社会進化において原始的(プレ)な人々である」と考えていますが、しかし彼らの生き方はむしろ、以降(ポスト)つまりポスト稲作・ポスト定住といえるとスコットはいいます。
彼らは権力に反発して、意図的に国家なき状態を作り出した人々であり、自ら国家の手中に陥らないように注意しながらも国家主体の世界にうまく順応してきた人々なのです。
ゾミアについてのジェームス・スコットの本「ゾミア脱国家の世界史」。
かなり読み応えがあります。重量級。