楕円で鉄で自給自足の家
2016/12/20
前回紹介しましたとおり、川合健二さんはエネルギーの人なんですが・・・
彼の設計した「コルゲートハウス」も独自の考えから計算・設計されたエネルギーの家なのです。
「独立独歩」川合健二とコルゲートハウス
「ドラム缶の家」とタクシーで伝えればそれで通じてしまうほどインパクトのある外観の川合邸は、その名の通り工業製品であるコルゲートパイプを使って組み立てた家です。
ただ地面に鉄の筒を転がしただけの家は基礎がないため建築物とは見なされず、ずいぶん長いあいだ固定資産税を支払っていなかったという・・・。
今でこそ広く認知され、一定の地位を確立した川合邸ですが、建てられた当時は完全に面白建築として扱われていたそうです。
なぜコルゲートなのか、楕円なのか、独立型なのか、そこに至るまでの思考と実際をインタビューで語ってらっしゃいました。
読めば読むほどに面白くて、抜粋しようとしても気づくと全文写してしまいそうな勢いなので手短に・・・。
(川合花子さんと健二さん)
インタビューによりますと、コルゲートハウスの考え方はこんな感じです。
1、セメントを使うと砂や砂利を入れるから非常に重量が重くなる。それをまた鉄で支えなくてはならない。
2、それだったら鉄だけで作ろう、鉄の成分は土の中に多い。いつも供給できる。リサイクル可能。ボルトでつないでおけば壊すときも小さくできる。
3、砂の上に乗せれば地震の反動を吸収してくれる、電車のレールのように。
4、住居を地球に固定しないことが大事である。だから建築は建てるのではなく寝ているほうがいい。寝ている建築なら倒れる心配はない。
5、それで形は丸を横に倒してそこに住まうほうが安全である、ということに落ち着いてきた。
6、四角い建築に対して丸いということは1/3または1/5の少ない材料で済むので非常に経済的。
7、家は囲いだけできていれば、中は10年20年かけて徐々に作り上げていくものだと思う。コルゲートハウスは3~4日でボルトで組み上げたらできてしまう。家というものは、それほど大事業ではないということ考えてもらいたい。
ではコルゲートハウスの優れた点、そしてどんな家なのかをインタビューから・・・
1、この家は地面に固定していないから地震に強い。全体がアースしてあるから雷も関係ない。リサイクルできる。
2、1坪あたり鉄200キロ。家は標準で50坪いると思うので、10トンで1つの家を作る。楕円形で作る。
3、建築で一番気に入らないのは20年経ったら建替えること。
コルゲートパイプは鉄板に波を打たせてあるから断面係数が増え非常に強靭である。
これに1平方メートルあたり175グラムの亜鉛をつけると錆びない(ただし鉄板の厚み2mm以上)。
下水管にしても50年持つ。外に出すと100年持つ。現にこの30年間一度もメンテナンスしていない。
4、基礎はブルドーザーで地面を丸くえぐって砂を40~50センチ敷いた。その上にパイプを置いて両脇に砂利を入れた。
天竜の一番いい砂利。トラックで15台分ほど。砂利が柱。家の隅に積んである本も柱。
(左:砂利が柱。右:ハニカムの窓・夜)
5、夏は暑い。農業用のパイプを屋根に引張ってきて屋根の真ん中にホースを通して、そこに開けた穴から両側へ水が流れるようにしてある。
6、土地は1800坪を坪500円ほどで買った。1800坪は農業として家族が食べていける最小の数。牛だと3000坪要る。野菜とみかんをほぼ無農薬で育てている。
7、便器も洗面器もお風呂も台所の流しも全部アメリカンスタンダード社製。当時のアメリカで最高のもの、値段も一番高い。食卓の電灯の笠はデンマーク製。
8、車は土地を探すために買った。最初はVW・1953年型。家ができてからポルシェを買った。でも200キロくらいしか乗っていない。
自分で運転はしない。車は怖くて嫌い。エンジンが好き。
車に熱をあげて仕方無かったからポルシェを買ったら車から関心が薄らぐかなと思って。
万能トラクターのユニモグも買ったけど、ポルシェより高かった・・・。
9、家の南と北の妻側(パイプの開口部)をどうしていいか考えつかなかった。金属の膨張とガラスの膨張と・・・考え付くまでまる2年かかった。(→結局南は塞いで、北にはハニカムのガラス窓が設置されました)
10、6尺の鉄板が市販されていたので、一辺を1尺の6角形に折った。すると2尺×2尺のガラスが嵌る。1枚280円の3ミリ厚のガラス。これは風速55メートルに耐えられる。
南北で約130枚の鉄板が切られて6角になった。両方で1トン800くらい。
各施設で大規模な空調設備などを設計して、またエネルギーを無駄なく使うことを考えている人が、自宅では曰く「工事が思う通りにはやってくれず」、床下暖房が効かなくて石油ストーブを使っているというのもちょっと良いですよね。
また、台風に備えてアメリカから10kwのコンプレッサーを買って、台風が始まったらコンプレッサーを回して外からの圧力のバランスを取るとか、思いついても実行しないようなこと(ふつう思いつかない)を平然とやってのけるのでした。
川合さんは、エネルギーの有効利用の観点からコルゲートパイプに注目しました。鉄は最も優れた素材であると。
頑丈で、安価。ボルトで組み立てれば簡単だし、移動もリサイクルも可能。いずれ朽ちて還っていく。
現在のコルゲートハウスの周囲には、歴代の車たちが土に還るのをじっと待っています。
車を引き取りたいとか修理を申し出る人もいたそうですが、すべて断って、錆び行くままにしているのだそうです。
(川合さんの愛車たち)
コルゲートハウスは鉄でできていますので、どうしたって寒々しい印象になってしまいます。
そこで川合さんは、内装を大工さんに依頼し木でやってもらいました。
川合邸の壁が鉄であるとかそういう問題ではなしに、どことなく異国のような、不思議な、浮世離れしたような印象を受けるのは彼が選ぶインテリアの力が大きいと思います。
たとえば、上に書いたインタビューでも電灯の笠がデンマーク製だと言っていましたが、そのルイス・ポールセンのアーティチョークが、鉄の冷たさに妙に映えていましたし、その近くにはカスティリオーニのメタリックな笠が吊るされています。
そしてフリッツ・ハンセンやイームズの椅子たち、水周りの設備はアメリカ製だったり・・・。
これは「世界で考えられた立派なものを誰かが買って応援せにゃダメかと思って」という川合さんの考えから。
だから買って封をしたままのものがいっぱいあるんだそうです。
「子孫のためにも、お金を残すじゃなく先祖が何を選んだか、どういうものを買ったのか見てもらいたい」
(ルイス・ポールセン「アーティチョーク」)
(カスティリオーニのスプリューゲンブローと川合さんの仕事机・遺影)
コルゲートハウスの中のサイズ・内装など
間口:約12m
奥行き:8.4m
天井高:6m
床面積165平米のワンルーム
床面積の半分のロフト
玄関の段差なし、トイレ・お風呂の仕切りなし(カーテンで)
鉄の壁、鉄の床
4畳半の畳スペースが2箇所
水周りは上にあるほうが管理しやすいので、みんな2階にまとめられた
基礎が無いため長年住宅とは認められなかったけれど、2004年、日本建築家協会から住宅部門賞を贈られました。
ところで、水周りといえば台所も含まれるわけですが、台所について川合さんのお話に考えさせられるものがあったので書きとめておきます。
お鍋でものを煮るときに、熱交換器もつけずにガスでお鍋の下から火をくべるというのは、効率からいうと25%から40%くらいで、あとの60%ぐらい放っとるわけです。
東京ガスがLNG(天然ガス)を船で100万トン持ってきても、家庭で主婦が60万トン放っとる。
お鍋の改良、台所装置の根本的な改良が必要だと思います。
キッチンにおけるエネルギー革命。
それからガスを家庭の中に引いておくことは許すべきことじゃないと思う。だから電気で炊事する。
高エネルギーの電気を使うともったいないけど、過渡期としては止むを得ない。
川合健二マニュアル (acetate)(amazon)
ルイス・ポールセンのライトがアマゾンで売ってました・・・お高いです・・・。