閑話

鉄道の旅|小屋暮らしとは関係ない話#5

2016/10/09

(これは02/11/2016 の「今日のニテヒ生活」の記事です)



山での生活は電車というものに縁がありません。

少し前まで毎日満員電車に乗り込んでいたというのに、電車と聞いて思い出すのは決まって旅で乗った電車のことです。

 

それは電車というより汽車といったほうがしっくりくる、乗降口がいつも開きっぱなしで、窓も開け放し、座席が向かい合わせにずらりと並んで、まるで錆びた骨董品のような代物です。

車内はびゅうびゅう風が吹き抜けるので、特に暑い地方を走っている時の心地よさったらありません。

午後の車内はみんなトロトロまどろんでいて、ひとつの大きなベッドに揺られている気がしてきます。

次いで思い出すのは、列車の中での食事です。

印象的だったのが中国の列車で、中国人は皆、座席に落ち着くやカバンからカップラーメンと水筒を取り出し、車内に据え付けられた給湯器から湯を注ぎ、ズルズルっと始めるのです。

彼らはナッツも好きで、ビニール袋いっぱいのピーナッツを、手を休める事なく次々と口へ放り込み、殻はすべて床へ投げ捨てるので、床はあっという間におが屑のようなピーナッツの殻で埋め尽くされます。

ついでに付け加えると、カップラーメンの容器も床に棄てるので、発車から1時間も経たない内に車内はさながらゴミ溜めの様相を呈します。

万事がこんな調子なのでトイレもすぐに詰まり、とても使えたものではありません。

しかし車内に給湯器があるというのはなかなか便利で、その存在を知ってからは長距離列車に乗る前にスーパーへ行ってカップラーメンを買い、水筒と茶葉を用意してから駅に向かうようになりました。

 

まだ開通して間もなかった悪名高き青藏鉄道に乗ったときには、中国の鉄道らしからぬ豪華な内装に驚いたものでしたが、それがあれよあれよと汚されていく様は「ああこれが中国なんだな」と思ったことでした。

それでもチベットへと登る青藏鉄道の車窓から覗いた、シンとした大地は忘れがたく思い出されます。


青蔵鉄道からの風景
(青藏鉄道からの風景。白く凍りついた川)

 

中国で買った水筒
(露店で買った水筒。茶漉しが付いている。さすが中国)

 


楽しかったのは、やはりインドの鉄道です。

広大な大陸を2日3日かけて移動するときには寝台列車を使います。

 

ベッドは上中下段とあって、いつも決まって上段を予約していました。

下段は昼のあいだ上中下3人分の座席となるので、好きな時に昼寝が出来ないという理由から避けていましたし、中段のベッドは昼間は壁にペタリと倒されているので問題外です。

列車の長旅で楽しみなのが食事です。

あらかじめパンやスナックや水を買ってから乗り込みますが、車内では係りの人が座席まで弁当の注文を取りに来てくれます。

そうして食事の注文を済ませておくと、時分どきになって停車した駅で大きなアルミワゴンがいくつも積み込まれ、「あれは注文の弁当に違いない」と思っていると、果たしてワゴンが順々に座席をまわり、やがて自分の席に横付けにされ、ハイヨっと温かい弁当箱を手渡してくれます。

弁当箱の中身はもちろんカレーです。

そんなふうに車内のみんなで同じ弁当を使っていると、まるで団体旅行に来ているようで可笑しくなるのでした。

インドのキオスク
(インドの駅の様子。キオスクのような店は本屋。ヒンディー語で「Book Star」と書いてある)

 

車内にはまた、さまざまな売り子が入れ替わりやって来るので、それも楽しみのひとつです。

売り子たちは途中の駅から列車に乗り込み、一通り車内を巡回したあと下車します。
そうやって駅間を行ったり来たりしているのでしょう。

どんな売り子が来たのか覚えているものを挙げると…

豆を炒るか揚げるかした菓子
日本で云うところの、グリーンピースを揚げたツマミのようなもの。
紙をクルクルっと三角に丸めた容器に入れて渡してくれる。

ココナツ
くし形に切ったココナツには白い実が薄く付いているので、それを前歯で削ぎながら食べます。ほのかに甘い。

ナッツやドライフルーツ
ビニールに小分けにしたものを指に引っ掛けブラブラさせながら売り歩く。


売り子が持ってくる水には、空きペットボトルに雨水を詰めたものが出回っているとIndiaTimesで読んだことがあったので、水は商店で買ったものを何本か持ち込んでいました。

ベルトやハンカチなど
沢山の商品を見やすく腕や肩にディスプレイしている。
売り子は違えど商品はだいたい同じものでした。

新聞・小冊子
読めないけれど眺めて楽しむために幾つか買っておけば良かった。

おもちゃ
派手に彩色されて、手の込んだ木製のものや、プラスチックのチープなおもちゃ。
ヒモと重りの仕掛で動く木の鳥を買ったことがありました。
紙に包んでカバンに入れておきましたが、帰って開けてみると仕掛けが絡んでしまっていて残念でした。

靴の修理屋さん
修理道具の詰め込まれた小さな木箱や革カバンを提げ、肩からは靴を引っ掛けています。
旅先のよく歩く靴は壊れやすいので、ありがたい存在です。


それから忘れちゃいけないのがチャイ屋さん。
隣の車両から「チャイ、チャイ、チャイ…」と口上が聞こえてくると、急いで小銭を用意し、それを握りしめながら座席で待ちます。

正確には「チャァァイ、チャイッ、チャイッ」とやって来ます。

100mlほどの小さなカップに熱々を注いで渡してくれます。

どんなに気候が暑かろうが、熱くて甘いチャイが飲みたくなってしまうから不思議です。



そして忘れられないのが、消灯時間になると何処からともなくやって来るナゾの一団です。

派手に着飾った数人が気怠げに通路を進み、さあ寝ようとベッドに横になりかけた乗客の顔をジッと見つめるのです。
時にはツツっと身を乗り出してくるので、見つめられた方も必死に目を逸らし、しばらくそんな風に押合ったあとフイっと通路に戻る…。

見ないフリができなかった人はしぶしぶお金を渡しているようでした。


わたしはアレが来たら寝たふりをするよう前もって聞かされていたので、その様子をブランケットの隙間からそっと盗み見ていました。


一団が去ると車内はホッとした空気に包まれ、やがてあちこちから寝息が聞こえはじめるのでした。

 

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