人びと

New![昔話]ルンペンABちゃんの天然シャワー

2016/07/29

それほど乗り気ではなかった映画でも、見始めたら止まらなくなることはよくあります。昨日見た映画もそんな感じでした。

これだけでも大分夜更かしをしています。

生活のリズムを朝方に戻さないと、そのうち始まる夏の仕事で苦労するのは目に見えています。

決意を固くし、ロフトに上がりました。

さて、寝ようかとベッドに潜り込むと、枕元にiPadがあり、そこでもまたPDFや動画をみたりして、バッテリーがなくなってようやく、寝ないといけなかったことを思い出します。外は完全に明けていました。

さすがに眠いけど、iPadなんかの明るい画面をみていたせいか、寝付きが悪くて困りました。こんな時には小難しい本を読むにかぎります。

あっという間に眠気が襲ってきました。


翌朝、というか、もう昼って感じの時間帯に目が覚めて、最初に感じるのは罪悪感、自分を卑下するネガティブな感情です。最近はこんな負のスパイラルに陥っていました。

このままでは良くないと、生活を改善したく思いました。

思いついたアイディアは近くを散策することでした。山歩きに近いルートもあるので、昼ころに起きた時の、霧のかかったような頭もリフレッシュ出来るし、身体も適度に動かすことが出来て、これなら寝付きも良くなるだろうと思いました。

この思いつきは悪くなかったようで、小一時間も歩いていると、額から汗が滲み出て来ました。身体に溜まった悪い毒素が抜けていくような、清々しさを覚えます。これからは毎朝起きたら走ろうかな?と思いました。まぁ、これはいつも思うことで、実行に移せたことのない思いつきなので、今後も走ることはないと思うのですが…

久しぶりの散策だったので、いつもより大分大回りをしてから小屋に戻って来ました。

丁度小屋に到着した絶妙なタイミングで、ポタポタと雨が落ちて来ました。降り始めの頃はお天気雨って感じで、雨が降るなんて誰も予想の出来なかった空模様でした。

お天気雨は狐の嫁入りとも言います。とても不思議な気持ちに陥ります。大好きな気象状況なのですが、そう長くは続かず、あっという間に空は曇ってしまい、風が出て来ました。

そしていきなりのバケツをひっくり返したような大雨です。時間はまだ少し早いけど、夏の夕立って感じでしょうか?

突然、フラッシュバックしたかのように、ある映像が僕の頭の中で再生されました。とても懐かしい記憶です。

僕は中学生でした。その時の僕にはルンペンのABちゃんという友だちというか、顔見知りがいました。

彼はホームレスで、図書館に併設された公園が寝床だったのだけど、たまに日雇いで働くし、仲間もいるし、何より清潔でした。

話すようになった切っ掛けは忘れましたが、彼は意外と普通の人だったことがカルチャーショックで、目から鱗が落ちるような気持ちになりました。

ABちゃんは僕にはとても気を遣ってくれたし、優しかったのですが、他のホームレス仲間には高圧的な態度をとることがあって、そんな暴力的なところが玉に瑕だと思っていました。

ある日のこと、また僕はABちゃん達のいる公園にいました。

そろそろ帰ろうかなと思ったころ、突然空模様が怪しくなり、叩きつけるよな雨が降り出しました。

慌てた様子でABちゃんは、近くにいたホームレス仲間に叫びました。

「おい!石鹸もって来い!!」

雨宿りをしていた軒下から出るのを嫌がったホームレス仲間にABちゃんは躊躇なく拳を突き上げ、暴力をチラつかせました。

酔っ払った時なんかは、怒鳴り散らす場面をみたことがあったけど、いきなり拳を突き上げたこの時のABちゃんは、焦っていたのだと思います。

ABちゃんは雨脚の弱まる前に、身体を洗ってしまいたかったのではないかと思います。

ホームレス仲間の持ってきた石鹸を奪い取ると、ABちゃんは素っ裸になり、頭から足の先まで石鹸を塗りたくり、それはそれは気持ちよさそうに天然のシャワーのなか、身体を清めていったのです。

時間の経過とともに、この時の映像は美化され、キラキラと輝いて脳内で再生されるようになりました。

僕は他のホームレスの人たちと同様、ABちゃんがシャワーを浴びる姿を見守ることしか出来なかったのですが、この時に、どうして自分も一緒になって、天然のシャワーを浴びなかったのかと、後悔しました。

ABちゃんの自分勝手でわがままで、いつでも自由で開放的なところには、少なからず憧れに似た気持ちが芽生えていたのだと思います。

rain (2)
当時のABちゃんが幾つだったのか、もう知る術はありませんが、今の僕は当時のABちゃんの年齢に大分近付いたことは間違いありません。

とてもABちゃんには及ばないけど、それでも少しはABちゃんの持っていた自由さには、近付いているのかもしれません。

そして目前はバケツをひっくり返したような土砂降りなのです。

近所に引っ越してきた家族の中には若い娘さんとその友だちもいるので、素っ裸にこそなれませんでしたが、僕はボクサーパンツ一枚になって、土砂降りの中、外に飛び出しました。

頭についた泡を洗い流すには、庇などを上手に使う必要があって、天然シャワーは思ったより良いものじゃなかったけど、この歳になってまた一つ、念願が叶ったなぁ。と思える一日でした。


今日こそは早く眠るぞ…


おしまい。

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