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森のテロル DIY 伐採|伐木

[赤松の伐木に至るまで][2/3]森の巨人

2017/03/15

自分を落ち着かせる為にも昼ご飯を食べました。うどんでした。
味わうことを忘れ、どうしよう、どうしようと、途方に暮れていました。


クレーンを使って赤松を切る…

家には50本以上、隣の農作業小屋は敷地が大きいので、うちよりも沢山の赤松が生えています。
優に三倍はありそうです。

どこまで切るのかは不明ですが、全部切るなら何日掛かるのだろうか?そして幾らお金が掛かるのだろう?想像もつきません。


写真手前の白地に赤い文字が書かれている屋根が家の小屋です。奥の二軒が農作業小屋。


隣の人との支払い交渉は容易に行くのだろうか…?

気がつくとジャイアンの提案する、クレーンを有する業者に隣の人と折半して赤松の伐採・伐木依頼をすることばかりを考えていました。

しかし、お金がないことが功を奏し、ジャイアンの提案から抜け出すことが出来ました。

お金が無く、自分にも木を切る技能も道具もない場合、どのような解決策があるだろうか?

誰かに頭を下げて助けて貰うのか、問題を放棄するのか?

頼れそうな方は一人しかいませんでした。

それは前回の記事で登場した方のことです。

定年後にセルフビルドのログハウスへ移住、林業の経験をされた方で、家の赤松を切れると言ってくれた方の自宅へ向かうことにしました。


運良くその方は在宅でした。
仮に名前を「鉄さん」と呼ぶことにします。


僕は鉄さんに、事の顛末を話しました。


そして、自分なりに本を読んだりインターネットで調べたり、自分の小さなチェーンソーでも切れる程度の木の伐採・伐木もやってみたりして勉強したことを話ました。

そして、以前貸してくれると言っていただいた道具をお借りしたいと頭を下げました…



鉄さんは取りあえず僕の家の赤松を見に行こうと言いました。


家までの道すがら、鉄さんは僕に「ジャイアン」がどんな風体の男だったか、繰り返し聞きました。

何か考え事をしていた鉄さんは意を決した様に語り出したのです。


「俺は40歳位の時にこっちに土地を買って、東京で働きながら20年位通いでログハウスを建てたんだ。」

「定年退職後、こっちに移住して来たんだが、地元の連中に大分カモられて来た。だから人にお金を出して仕事を頼むならそのお金で道具を買って、何でも自分でやってやろうと思ったんだよ。」


確かに初めて鉄さんの家に伺った時にはとても驚きました。

家よりも大きな作業小屋があり、壁一面には工具が掛かっていました。
発電機から巨大な溶接機、チェーンソーからチルホールなど、木の伐採に必要な器具、クレーン車(クレーンの搭載されたトラックで良くユニックと呼ばれている)にバックホー(ユンボの名称が一般的?)までありました。


更に鉄さんは、

「今の話を聞いてピンと来たんだよ。奴ら地元の連中と業者はみんな知り合い、グルだから、仮に100万円掛かる作業で、お前が30万、隣の農作業小屋の連中が70万払うって約束で発注した場合、実際は50万円しか掛からない仕事かもしれない。もっと言えば30万円で出来る作業かもしれないんだ。」

「それに、昔、お前の土地の赤松が倒れて農作業小屋の屋根を割ったのは知ってるけど、あんな屋根を直すのに30万円掛かる筈ないよ。いいとこ5万だな。」


鉄さんは木の伐木だけでなく、屋根の吹き替えは勿論、浄化槽の設置から庭木の手入れまで、本当に何でもやるらしい。

安定した有名企業出身なので、お金には困っていないだろうに、未だに呼ばれれば何でもやるのだという。

僕は鉄さんの話を聞きながら心のなかで、「森の巨人」に出会ったのだと思っていました。

 

我が家の赤松を見た鉄さんは、あっさりと、

「よし、明日の朝からやろう」

と、赤松の伐木を引き受けてくれたのでした。


伐木は、チルホールで引っ張り、チェーンソーで根本から切るという方法になりました。

1.家の前の道路には電線が通っているので、その周りの伐木はやらない。

2.万が一倒れても隣の農作業小屋に影響のない木は切らない。



「2.」は僕がお願いしたことでした。

全ての木を切ることは僕の望む「森の生活」ではなくなるし、何より自分の小屋にだけ危険な赤松くらいは自分で何とかしたいと思ったからです。


全て伐木したイメージ。僕は嫌だなぁ。


翌朝、約束通り鉄さんは沢山の荷物を軽トラに乗せてやってきました。

僕の持っている様な小さなものではなく、プロ使用の大きなチェーンソー。それに枝払い用の軽いチェーンソーもあります。

他にも木を牽引する為のチルホール2台に大量のワイヤー、梯子が見えます。


それらの道具をみて、とても今の僕には扱えなかったであろうと思いました。

 

伐木の手順

1.先ずは、チルホールを使わなくても倒せる背の低い樹木を次々に倒していきます。

2.大木を倒せるスペースが確保出来たら、梯子に登って目当ての木にワイヤーを掛けます。そして倒したい方向にある木に滑車を設置します。

3.チルホールを操作する人(主に僕)は木の倒れてくる方向から大分離れたところの木にチルホールを設置します。

4.最後に赤松に結ばれたワイヤーを滑車に通し、チルホールと結べば準備完了です。


ⅰ:倒したい木にワイヤーを掛ける
ⅱ:滑車を設置する場所(この方向へ木を倒す)
ⅲ:チルホールを設置する場所(木が倒れても安全な場所)


チェーンソーを扱う危険な作業は、出来ることなら自らがかって出たかったのですが、本を読んだ程度の知識では二の足を踏んでしまいます。

僕は指示された通りにチルホールを操作し、木が倒れたら木に結ばれたワイヤーを外し、その後、自分の小さなチェーンソーで枝払いをしました。


巨木が倒れる様はまるで悪夢のようでした…

倒れ始める時のうめき声、地面に倒れた瞬間の地響き、自分が生きている事を実感すると、安堵と共に忘れていた疲労に襲われる。

年輪を数えると優に自分よりも長く生きてきた木ばかりであることに驚く。

松食い虫に入られた訳でもなく、寿命が近い訳でもない。切られた面からは松ヤニが滲んでいる。
元気でまだまだ生きられたであろう木を倒すというよりは、殺しているという感覚に包まれる…

何本か倒していくうちに、僕はハッキリと「もう止めたい」と思うようになっていました。

しかしながら、他人の僕の為に頑張ってくれている鉄さんにそんな気持ちを悟られる訳にはいきません。

僕は一層大きな声で、鉄さんから出される合図に答え、チルホールを操作しました。

そして木が倒れたらチェーンソーを持って枝を払いに走り回ったのです。


「木が殺され、僕は生きている」


でも次は、、


「木が殺され、僕も死んでいる」


となっても不思議ではないと、チルホールを操作する度に思いました。

これは単純に、慣れない作業に恐怖しているだけではないと思います。

まるで巨木と僕らとの命のやり取りをしているような感覚に陥り、異常な緊張感に襲われていたのです。


敷地には赤松だけでなく、桜や栗の木もありました。
移住当時、僕はこれらの木が自分の敷地に生えていたことが本当に嬉しく思っていました。


これらの木も、隣の農作業小屋に倒れる恐れのある赤松を倒す為にはどうしても切らなくてはならないと鉄さんに言われていました。

倒された桜と栗の切り株からは、いつまでも、いつまでも、地中の水分が吸い上げられ、濡れていました。

特に桜の木は立派で、春になって花を咲かせることを楽しみにしていました。

結局一度も目にすることなく、伐木してしまいました。

今でもこの時の事を思い出すと、本当に他の解決策は無かったのだろうかと考えてしまいます。

 

翌日の作業

次の日はバックホーを乗り入れての作業となりました。

バックホーによく見られる土を掘るバケットではなく、カニの爪みたいな林業用のアタッチメントに交換されていました。

チルホールで引っ張る方法だけではなく、バックホーで木にテンションを掛け、チェーンソーで切る方法も加わりました。

若干精度は落ちるように思われましたが、スピードは格段に上がりました。


一度家の屋根を掠めたり、農作業小屋とは反対側の放棄地に赤松が倒れ込んだりもしましたが、結果、2日で20本以上の木を伐木しました。



写真右手側が道路に面しています。左手には倒された木々がまとめられています。

道路に近い木に関しては、思いがけない方向に倒れた場合、電線を切ってしまいかねないので手つかずとなります。

その為、完全に農作業小屋への危険を取り除けたとは言えませんが、それでも8割方の不安は取り除かれたと思いました。


最後に鉄さんはバックホーで敷地に倒れている木を一カ所にまとめてくれました。
この作業だって人間が小さなチェーンソー1台持ってやれば何日も掛かる大変な作業です。


「残りは自分でやってくれな」

そう言い残し、鉄さんは去って行きました。


僕は一生頭の上がらない人間をまた一人作ったことになりますが、10代の頃に土木作業のアルバイトしていた時の親方との関係を思わせる、鉄さんとのキビキビとしたやり取りが妙に清々しく、あの人には一生頭が上がらなくても良いか、と思いました。


積み上げられた赤松の上に登って敷地を眺めてみました。

安堵し、鉄さんには感謝の気持ちで一杯だったことは間違いありませんが、心の何処かでは、取り返しのつかないことをやってしまったのではないかというネガティブな感情もまた湧いていました。

きっとこの景色に慣れていないこともあるのだろうと思います。


次の更新では、赤松が電力会社とNTTの電線を巻き込んで倒れてしまう、そのリスクの対応策について書きたいと思います。

 

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