バナナの皮が塩になる??バナナ塩ってナニ
2018/03/27
インドは広大です。
北と南では食べものも、人の容姿も、さらには言語も変わるほど。
北ではステンレスの食器で食事を供しますが、南では加えてバナナの葉を用います。
南のレストランでは、客が席に着くや店員さんがやってきて、テーブルにバナナの葉をサッと広げ、その上にサンバル、ポリヤル、チャトニなどのミールスをぽんぽんっとサーブしてくれます。
(南インドのミールスのイメージ)
インドで消費されているバナナは、いわば食事のバナナで、割ると中にはタネが並んでいる野生的なもの。
実はもちろん茎も葉も、時には皮も使います。
葉は食器として
茎は刻んでおかずに
そしてバナナの皮からは、代用塩を作製するんです!
と、こう書きますと、バナナまるごと捨てるところなく使い切っているような印象を受けますが、実は収穫後のバナナのあらゆる部分は、ゴミとなっているのが実情です。
今回は、バナナ皮の代用塩を作ってみたときの様子をお届けする予定でしたが、代用塩について調べてみますと、なかなか興味深かったので、すこしまとめてみました。
読むの面倒くさい、代用塩を作るところだけ読みたい、という人はかなり下の方までスクロールしてください…。
バナナというのは、世界中で最も生産されている果物のひとつで、インドは生産量第1位、全体の20〜30%を占めていますが、そのほとんどを国内消費しています。
つまりインドでは、恐るべき量のバナナを生産し、可食部以外の大部分が国内でゴミとして捨てられている…。
バナナの販売 南インド
バナナの花と実
そして勘違いされやすいのが、バナナは「木」ではなくて、じつは「草」であるということ。
バナナは一生に一度だけ実をつけます。
そして株元から枯れてしまう。
しかし根は生きているので、やがて芽を出し、花を咲かせて実をつけて、また枯れて…を繰り返す多年草なのです。
バナナは成長すると2~10メートルにも達しますし、その茎は直径30センチ以上はあろうかという、まるきり大木体です。
実を収穫したあとの、それら巨大な葉や茎は、もはや枯れるのを待つのみ、じつに果実の7倍以上が有機ゴミになるという、やっかいな存在に成り下がります。
そういった莫大な残バナナの処理を、インドは抱えているということなんです。
そこに目をつけたのがアメリカさん。
Journal of Chemical and Pharmaceutical Research の記事によると、アメリカでは近年、食生活の変化による塩分の過剰摂取からくる、高血圧などの健康リスクを抱えている人が増えていて、それをバナナのゴミ?で解決できるのではないか?と考えた。
合衆国保健福祉省では、一日における塩分の摂取量を、以下のように推奨しています。
塩化ナトリウム→2300mg(海水を乾燥させたり、岩塩から採掘されるもの。いわゆる「塩」)
塩化カリウム→4700mg(反応性に富むため、自然界に単体としては存在しない。地中や植物中など化合物として存在する)
塩化カリウムの多い食事を摂ると、血圧を下げる効果が期待できるそうで。
しかも塩化カリウムは、摂取量の制限がナトリウム塩よりも緩いため、過剰に塩分を摂取しがちな現代人の食生活に沿うものであると。
だから、普段使っている「塩」を塩化カリウムに変えてみるのはどうか?と、いう訳です。
そしてその塩化カリウムを、インドのバナナの茎を燃やして灰にして、水に混ぜてろ過したものから、取りだそうというのです
(その過程は、まるで私が草木灰から石けんを作ろうとしたときのよう)
バナナ塩には、46%のカリウムと2.6%のナトリウムが含まれているという。
そのバナナ塩=塩化カリウムを塩化ナトリウムの代わりに摂取すれば、アメリカは健康改善・インドもよろこぶという算段のようです。
※日本の「減塩」という商品には、たいてい塩化カリウムが配合されている
そんな植物の灰から作るカリウム、じつは世界中で作られ、塩の代用品として使われていた歴史があるんです。
オセアニア、中央アフリカ、アメリカなどに暮らした人びとは、草木灰や、野菜の灰から代用塩を作っていました。
代用塩の製作には158種もの植物が使われたというレポートもあるそうで。
さらにアフリカでは、塩をつくるための植物を栽培していたと。
で、南アメリカ・中央アメリカでも、広く灰塩(Ash-Salt)が作られていたという多くの記録が残されています。
amazonの北西に住んでいるウィトト族によって作られている野菜塩を研究したレポートがありましたので、少しだけご紹介します。
ウィトト族は、森を切り開き、焼畑を行い、釣り・ハント・採集に出かけて暮らしている人びとです。
ウィトト族の野菜塩のつくりかた
1、野菜など材料を集める
2、灰のあまり出ない木を使って火をおこす
3、集めた材料を薪の上に載せるようにして燃やす
4、灰が冷えたら、炭や不純物を取り除き、フィルターを通して水でろ過する
5、ろ過した灰汁を容器に入れて火にかけ、沸騰させて塩の結晶を取り出す
このようにして作られた代用塩には、カリウムが26.9%~44.6%程度含まれているという。
代用塩に含まれる成分は、材料となる植物によって違いがあって、それが、塩の味の決め手になるそうです。
例えば、
塩化物イオンが多いと、スウィート&クールな味
炭酸イオンが多いと、ストロング&ホットな味
木は後者なので、木の灰から作る代用塩はストロング&ホットなお味になるということみたいです
さて、ようやくお話はインドに戻ります。
インドでは、代用塩をバナナから作る地域がありますが、現在でも代用塩を使ったレシピがしっかりと存在しています。
今回は、そのバナナの皮の代用塩を作ってみようと思います!
インド式 バナナの皮の代用塩のつくりかた
用意するもの
1、バナナの皮(黒くなるまで乾かす)適量
2、皮を燃やすための火器(薪・ガスコンロなど)
3、水とペットボトルなどの容器
まずは、乾燥させたバナナの皮を灰になるまで焼きます。
結構けむりが出ることが予想されるので、野外で。
鉄のフライパンの上に載せて、バーナーで一気に焼きます。
ちなみにインド人はガスコンロの火で直接炙っていました。
バナナの焼き具合は、「炭」ではなくて「灰」になるまでじっくりと。
このときは焼き加減が気に入らなかったので、バナナを食べるところからやり直しました。
今回は、薪ストーブ内で。
アルミにのせたバナナの皮を炉内にいれて、灰になるまでじっくり焼きます。
バナナの皮を炉内に投入!
バナナの皮に火がついた!
すっかり灰になったバナナの皮。
灰になったバナナの皮を、500mlくらいの容器に入れて水を注ぎ、よく攪拌します。
そのまま一日放置しておき、灰が沈殿するのを待ちます。
ガラスの容器に灰を入れました。
水を注いで、攪拌。黒い液体になりました。
翌日。
すっかり沈殿しています。
底に灰が沈殿。黄色がかった透明の液体になった。
インドの人によりますと、この液体が「Khar」と呼ばれるバナナの代用塩とのこと。
Kharは、インドの北東部、アッサム地方で日常的に使われる食材であり、アッサムの食卓には不可欠な存在。
保存が効くので、大量に作ってストックしておくそうです。
本来は、インドでBheemと呼ばれるMusa Bulbisina(リュウキュウイトバショウ)の仲間のバナナの皮が厚くてkharにおあつらえ向きであるとのことですが、日本ではまず手に入らないので、今回は普通のバナナで代用しました。
kharの正体は、上でも書いたようにカリウムを含んだアルカリの液体です。
ためしにKharのpHを確認してみますと、pH10程度。
この試験紙は元の色が黄色のため、結果がわかりにくいのが難点ですが、安いことだけは確かです。
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さて。
せっかくKharを作ったのですから、Kharを使ったダル(豆)カレーのレシピをご紹介しておきます。
Kharのダルカレー
(ダルカレーのイメージ)
用意するもの
・Khar 大さじ1(なければ重曹で代用可)
・豆(ブラックレンティル、なければムングダルでもツールダルでも何でも)1カップ
・ターメリック 小さじ1
・玉ねぎ 粗みじん切り半個分
・トマト さいころ状にカットしたもの
・ししとうまたは青唐辛子
・みじん切りのしょうがとにんにく、ふたかけ分
ホールスパイス
・マスタードシード 小さじ1/2
・クミンシード 小さじ1
・カイエンヌ2本を半分にちぎる
パウダースパイス
・クミンパウダー 小さじ1
・コリアンダーパウダー 大さじ1
・ヒング 小さじ1/4(無くても可)
・塩 小さじ1
・カイエンヌペッパー 適量
・飾り用パクチー 適量
トマト、玉ねぎ、しょうが、にんにく
今回はツールダル(トゥールダル)を使いました。
作り方
1、鍋に洗った豆とターメリック小さじ1、水1リットルほどを入れて、火にかけ、豆が煮崩れるまで煮る。
圧力鍋なら圧がかかってから4分ほど。
普通の鍋なら30分~1時間くらい?
2、別の鍋に油大さじ4をいれて、蓋をして弱火でマスタードシード、クミンシードを炒め、弾けなくなったら蓋をとり、ちぎったカイエンヌを加えてから、玉ねぎを炒め、しんなりしたらしょうが、にんにく、ししとうを投入。
3、玉ねぎが色づいたら、鍋を火から外して、パウダースパイスと塩を加えて、よく混ぜる。
鍋を火に戻し、油とスパイスがよく馴染むように炒める。必要なら水を少量加える。
4、トマトを加えて煮込み、トマトの形が崩れたところで、豆を煮汁ごと加える。
5、Kharを加え、塩で味を調える。
6、好みの固さになるまで煮詰める。
うーん、Kharと塩を併用しているところを見ると、どうやらKharは、代用塩というよりも、調味料という位置づけのようです。
Kharを使った、よりインドらしいレシピとして、Kol Posola khar(バナナの茎の柔らかい部分を使ったおかず)や、Omitar Khar(生のパパイヤを使ったおかず)というものがありますが、どちらも日本では再現が難しいものです。
ですのでKharは、インド・アッサム州に行ったときにはぜひ味わってみたい、アッサム独特のお料理なのです。
あ、肝心のKharのお味ですが、なんとなく、ほんのりと塩っぱいかな?苦いかな?という微妙なものでした。