人びと

《森の不思議なご近所さん》自然嫌いのお婆ちゃん

2016/06/09

[2016/01/24更新の過去記事に加筆修正をしました。]


高速道路を使えば東京から2時間~3時間で到着する距離にある関東の避暑地。
そんな土地へ移住したのは2年と少し前のこと。


移住した当時は、何て山深く鬱蒼としたところなのだろうと、興奮と小心が激しく入れ替わるような[落ち着かない]といった感じだった。
これから僕はこの自然の中で暮らしていく。これは現実のことなのだろうか?そんな心境だったと思う。


誰に相談するわけでもなく、隠れて悪さをするような落ち着かない気持ちで建てていた、今も住んでいる小屋。
自分の買った土地でやっていることなのに、悪いことをしているような気持ちになったのは何故だったか?


役所の公開している複雑な条例を幾ら読み込んだところで不安は完全に解消されるものでは無かったし、更に慣れない作業をしていたのだから、決して心穏やかだったとは言えない。


設計図通りに小屋を建てる。そしてそこに暮らすつもりでここにいるっていうのに、いつまでも他人事のようで現実味がなかった。
これらのことは、[不安だった]と一言で終えてしまうには勿体無いと思う。何故こんなにも不安でなくてはならなかったのだろうか?


せめて小屋が出来上がるまでは、問題が起きないで欲しい。誰かに見咎められることなく小屋を建ててしまいたい。
表面的にはこのようなことを考えていたと思う。


そんな最中に唯一、暖かく声を掛けてくれたのが今回のテーマとなる、[お婆ちゃん]だった。


お婆ちゃんの家は僕の土地から更に1kmほど山に向かって登っていった先にあるのだという。ここよりも更に山奥に住む人たちがいるということもこの時初めて知った。

summer2 
summer 1:熊の目撃情報があれば、お婆ちゃんは大きなラジカセを手に闊歩します。
summer 2:絵が下手くそなので表現出来ていませんが、パナマ帽をかぶっています。男前!
Home wear:普段はおしゃれなお婆ちゃんですが、家の周りでは特別にラフです。シュミーズっていうの?

 

僕がお婆ちゃんにした自己紹介は、前もって用意しておいたもの。
※いざこざなんてゴメンだ。


「電気も水道もガスも引かないで暮らすような、シンプルな生活を送ってみたくてこの土地に移住して来ました。静かな暮らしを希望しています。」


最初から笑顔だったお婆ちゃんだが、僕の言葉を受け、更に機嫌が良くなったように思えた。


ここから先は移住者ばかりが住むところだから、何にも気にすることはないと慰めてくれたうえで、お婆ちゃんも自己紹介を兼ねたこれまでの半生のようなものを話してくれた。


お婆ちゃんは東京の代々木で生まれ育ち、能楽、狂言、歌舞伎といった伝統芸能に傾倒していたらしく、「兎に角伝統芸能を支えるにはお金が掛かった」と繰り返していた。


本当は [東京へ戻りたいが私(お婆ちゃんのこと)を引き取りたいと申し出る子供がいないから帰れない]といったことを遠回しにいっているように聞こえた。


そしてことあるごとに、ここの自然が大嫌いだと漏らしていた。最後には、この辺りの人間も嫌いなのだとも言った。


人間が嫌いと言ってしまうのには訳があって、それはお婆ちゃんが移住したばかりの頃、(20年ほど前と言っていた気がする。)井戸、庭木、フレハブ小屋を建てる時、お婆ちゃんはセールスに来た業者にそれらのことをお願いしていったのだが、業者は変われど、悉く、酷い目に遭ってしまったのだそうだ。


僕にはそれがいじめのように聞こえたから、胸が痛かったし、これからの自分を占うようでもあり不吉だと感じていた。


お婆ちゃんの話はどこか浮き世離れしていたから、世間知らずの僕は「へぇー」とか「うん」と相槌を打つことが多かったのだけれど、話している最中のお婆ちゃんは、子供に戻ったみたい若々しく、お喋りを楽しんでいるように見えた。


その後もお婆ちゃんと道で出くわせば、僕らは外連味たっぷりの楽しい会話が出来ていたのだけど、それは最初の1ヶ月程度のことで、その後はパタリと、僕たちの関係は終わってしまった。



僕が集落の皆と打ち解け始めたタイミングだったのではないかと邪推しなくもない。



求められていないと感じるようになってからもしばらくは、道でお婆ちゃんと会えば僕からは挨拶を欠かさなかった。
でもお婆ちゃんは、挨拶をされてもまるで惚けたように、僕の顔を見返すばかりで、結局返事が返ってくることはなかった。



このようにして疎遠になってしまったお婆ちゃんだったけど、そういえばその後も一度だけ、お婆ちゃん宅の前まで行ったことがあった。

 


それは初年度のこと、記録的大雪が降ったことがあって、流石に心配になったから、お婆ちゃんの住むプレハブ小屋の前まで行ってみたんだけど、小屋からはお婆ちゃんの大好きな伝統芸能のメロディーが漏れ聞こえるばかりで、いつまで待っても返事は返ってこなかった。


「こんにちはー」「お元気ですか?」

僕の人生で、こんなお節介をしてしまったのは初めてのことだったと思う。
暖かいエピソードに聞こえるかもしれないけれど、お婆ちゃん本人にとっては迷惑な行為だったかもしれない。尊重すべきは当然お婆ちゃんの気持ちだと思うから、これ以上この件を考えるのはやめようと思っている。


winter555 

On Christmas day:ファッションを楽しんでいるお婆ちゃんが素敵だと思った。
Winter:冬はもっこもこのムートンのジャケットで暖かそう。ニット帽が可愛さのポイントなのだろうか?


お婆ちゃんはすっかり自分の殻に閉じこもってしまったように思えたけど、そもそも、何十年も独りぼっちで住んでいるのだから、自分の心地よい距離感だとか、やり過ごし方といったことを僕なんかよりもずっと熟知しているのかもしれないと考えを改め、「まぁ人それぞれだよな」とわりと気楽に割り切ったのだった。


お婆ちゃんはとてもお洒落です。
歳は70台後半から90歳以上と言われても驚かないくらいに読み辛いのですが、今でも頻繁にバス停までの長い山道を力強い足取りで往復しています。


何かあった時には、助けを求められる男でいたいし、応えられる準備とはどのようなものがあるのだろうか?

柄にもなく考えてしまった。



それにしても、、移住してから僕は少し、変わったのかもしれない。


<おまけ>

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