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本にまつわる話

船乗りになって遭難した気分で

 

鑑真号という大きな船に乗って、海路中国へ行ったことがありました。

たった2日3日波に揺られただけでしたが、ベッドに横になっていても、起きて船内を出歩いているあいだも船体の微かな揺れに落ち着かなかったし、陸に上がってからもしばらくは地面が滑るような、めまいに似た感覚が続きました。


そして限られた空間しかない船の、甲板に出て涯なく続く海を眺めているときでさえも、不思議と少しの閉塞感がありました。

海に囲まれている故の閉塞感であったと思います。

もしもこれが長く続いたら、健やかに毎日を送るなんておそらくできないだろうと思いました。


ですから、何か月、何年も船に乗り続ける人は、たとえそれが仕事であろうと、偉いものだと思う訳なんですが、そこで今回は、夏もまぢかですし、「航海」にまつわる本をご紹介いたしたいと思います。


私の好きな本にコンラッドの「青春」という海の物語があります。

「青春」は年老いた船乗り「マーロウ」が、酒宴のテーブルを囲む面々に話して聞かせる、彼の若き頃の航海の思い出が軸になって進む物語です。


くたばる寸前の老船「ユダヤ号」に船員として乗り込むことになった20歳のマーロウは、これが二等航海士となって初めての、また、アジアへの初めての航海とあって張り切っていました。

船の積荷は石炭で、イギリスからバンコクまでの長旅になる予定でした。

けれどもユダヤ号は、衝突未遂・激しい嵐・水漏れ・水夫のストライキなど、次々と災難に見舞われ、出航しては港へ戻るを繰り返して、いつまでたっても航海が始まりません。

ユダヤ号は、永遠に出航しない船としてイギリス中の笑いものになってしまいました。

ようやく港を出たのちもトラブルはつづきます。

そんな災難づくしの航海の様子や、肝の座った水夫たちのこと、さみしい別れも、マーロウの飄々とした語り口によって、鮮やかで滑稽で爽快な物語になっています。

とくに最後、マーロウが焦がれたアジアに初めて触れたときを書いた場面が秀逸です。


で、この「青春」を読むとつい比較してしまうのが、「無人島に生きる十六人」(須川邦彦 著)という話です。

これは明治32年に実際に起きた遭難事故を、当事者である船長から聞いた話として著者が物語にまとめたものです。


こちらは航海というより完全に遭難して無人島に暮らした日々を書いていますが、16人みんなの気の持ちようといいますか、協力し合い、労わりあい、どんな時も学ぶことを忘れず、計画性を持って正しく遭難生活を送っている様子が、コンラッドの「青春」とあまりに対照的で、可笑しくなるほどです。

ただ、こちらもあっさりとした語り口なので悲壮感はまったくなく、しかもさまざまな無人島サバイバル術や、船に関する知識が登場するので、そういった面でも楽しめます。

一方でこの本には、藤九郎(アホウドリ)正覚坊(アオウミガメ)タイマイなどの乱獲とも写る場面が登場します。

「海鳥のなかでも、アホウドリは、いちばん大きな鳥である。肉は食用になるが、おいしいものではない。卵も食用になる。」


その名の通り「アホウ」なので捕まえやすい、だから

「無人島にむらがっているこの鳥の大群も、上陸した船の人の太いぼうで、じきにうちとられてしまうのだ」

 

「一同は、海がめをかたっぱしから、あおむけにひっくりかえした。これでかめは、重い甲羅を下にして、どうすることもできないのだ。」

「どんどんかめを運んだので、浜の漁船は、あおむけのかめがもりあがって、かめでいっぱいとなり、船べりから、波がはいりそうだ」

 

「このとき、龍睡丸につんでいたえものは、ふか千尾、正覚坊三百二十頭、タイマイ二百頭と、たくさんの海鳥であった」

 

といった具合です。


時代が時代なので仕方ないとは分かってはいるものの、だからみんな居なくなってしまうのだよ!と、思いながら読みました。


現在タイマイは、その数を激減させています。

べっ甲細工の材料となるタイマイは、ワシントン条約で取引が禁止されたのちも日本が輸入を止めなかったため、国際的に強く批判されたこともありました。


アオウミガメはワシントン条約で国際取引が全面禁止となっている上、ほとんどの国で法的に捕獲禁止と定められているのにも関わらず、様々な理由と事情により、現在でもかなりの数が乱獲され続けています。


アホウドリ
(ニュージーランドのアホウドリ)


アホウドリに関しては、「野生動物と共存できるか ーー 保全生態学入門」(高槻成紀 著)という本に、たったひとり伊豆諸島の鳥島でアホウドリを復活させる活動をなさっている長谷川博さんの話が紹介されています。

アホウドリは捕獲の容易さと、その羽毛の素晴らしいがために乱獲の憂き目にあい、1949年に絶滅宣言が出されましたが、その2年後の1951年、鳥島で10羽ほどの群れが発見されました。

その後、鳥島の気象観測所の職員による保護監視、そして長谷川さんの並ならぬ尽力の結果、1999年には1000羽にまで増えたのです。(詳しくは長谷川さんの著書「風にのれ!アホウドリ」をどうぞ)


そのほか「無人島に生きる十六人」では、クジラ漁に関することや、アメリカのゴールドラッシュのことが話題にのぼります。

このあたりの話は、ジョン万次郎の伝記「椿と花水木」(津本陽 著)に詳しいので、こちらを読むといっそう事情が分かりやすくなるかと思います。

 

津本陽といえば、二・二六事件で襲撃暗殺されたダルマ宰相、高橋是清の生涯を書いた「生を踏んで恐れず 高橋是清の生涯 (幻冬舎文庫)もオススメです。

藩命を受けアメリカに渡ろうとしていた若き是清は、アメリカ人貿易商に渡航費用や滞在費を使い込まれてしまいます。

それでもなんとか米国へ渡った是清でしたが、ホームステイ先の家族に騙されるような形で売り飛ばされしまい、農場での奴隷さながらの辛い労働を強いられます。

日本に帰ってからしばらくして、ペルーでの炭鉱事業にかかわることになり、契約した現地の炭鉱へいざ出向いてみると、そこはすでに数百年採り尽くされた廃坑…。

是清は、このペルーとの契約を穏便に、しかもなるべく損害を抑えて破棄すべく策を講じますが・・・。

などなど、おもしろ歴史のある人です。



ところで、「無人島にーー」には、明治のガラパゴスの様子が語られる場面もあったりして、こちらも興味深かいです。

ガラパコ諸島(原文ママ)には、7種類のガラパコという大きなカメがいて、まるで象のように大きく、象のような足を持っているから別名ゾウガメと呼ばれている・・・島が違えば住んでいるカメの種類も違う・・・最近までこの島には人間が住んでいなかった・・・

ガラパコは100年前(江戸後期1800年頃)から太平洋の郵便局になっていて、それは、とくべつ大きなかめの甲羅をふせて屋根として、その下へ、空き箱でつくった郵便箱をおいたものがあるだけだ・・・など。

 

ちなみにガラパゴスゾウガメは、食用や燃料の油として大量に捕獲され、また、環境破壊が進み一時絶滅の危機に瀕していました。

十数種類いるガラパゴスゾウガメの仲間のうち、2012年に亡くなった最後のピンタゾウガメ「ロンサム・ジョージ」は記憶に新しいかと思います。

 

それにしても、動物も、植物も、地下資源も、目の前にあるものをことごとく取り尽くしてきた人間は、欲深いというか思慮無しの生きものであるなと思ったことでした…。

 

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