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本にまつわる話

家の中の物を全部、外に並べたくなる本「地球家族」世界30か国のふつうの暮らし・その後

2017/04/10

 

世界30カ国のふつうの暮らしを集めた写真集がありまして、それぞれの国の平均的(と思われる)家族の所有物を屋外へ持ち出して、並べて、持ち主である家族と一枚の写真に収めるという、地味に壮大な企画ものです。

日本語版では「地球家族」というふわふわした名前ですが、本来は「マテリアルワールド」という直球のタイトルが付けられている通り、当初荷物の多寡を眺めて楽しむ本という認識で読み始めましたが、メインである荷物と家族の集合写真よりも、日常風景を紹介したオマケ的なページの方がよっぽど楽しめたように思います。


一度通して読み終えた後、今度は小屋暮らしの視点から、この本をながめてみることにしました。

小屋暮らしの視点というのは、不自由なく使える電気、ガス、水道を持たない生活を送る身として、世界の暮らしを見てみようということです。


はじめに説明しますと、この本は1994年に出版されたもので、23年も前の暮らしを写しています。

1990年代といえば、携帯電話にようやく液晶がついて、初代プレステが発売された頃です。


23年という時間は、30カ国を取り巻く情勢も、テクノロジーも、もっと小さく見ればそれぞれの家族の構成も環境も、変わるには十分すぎる年月です。


そんな訳で、現在の実情とはかけ離れているであろうことを先にお伝えしておきます。

 

水汲みをする生活、裸火を扱う生活

ガスコンロを使わずに、かまどや受け皿に薪を焚きつけて調理をしている家族と、水道がなく、井戸または遠くの給水所まで汲みに行っている家族を、写真と文章から読み取れる限り拾いました。

すると30カ国のうち、実に11カ国の家族が当てはまったのです。

 電気水道ガス
マリ××(共同井戸か川で)× 薪
エチオピア××× 薪
アルバニア×× クッキング薪ストーブ
ハイチ××× 薪
グアテマラ××× 薪
インド××(専用井戸。無料)× 薪
ボスニア停止停止(給水所で)× クッキング薪ストーブ
ブータン×不明× かまど
ウズベキスタン不明不明× かまど
モンゴル不明× 水クーポン(給水所)不明
中国不明× 村の共同井戸× かまど

 

マリ、エチオピア、グアテマラといったアフリカや南米の家族は、野外で火を起こし、その上に鍋を置いてご飯を作ります。

ベトナム、インド、中国、ブータンなどのアジアに住む家族は、かまどで行います。

地球家族
(ハイチの調理風景 ©1994 Peter Menzel

調理には使い古した飾り気のない鉄やアルミの鍋、空き缶で作った鍋、陶器のツボなどが使われ、食後の洗い物は汲み置いた水を使ってタライで行うか、砂を洗剤にして洗います。

ちなみにエチオピア、ベトナムの家族は、何も捨てないからゴミが出ないそうです。

地球家族materialworld

(グアテマラ・食後の後片付け・ツボに汲み置いた水で)


単純に設備が来ていないという理由でそのような生活をしている家族だけではありません。

ボスニアでは激しい内戦が続き、日常生活もままならないような状況で、水道も電気も止まってしまったためやむなく給水所まで水を汲みに出かけています。

夜の灯りはロウソクで、暖と調理は薪で行いますが、ひと冬の薪代は57,000円。家族の月収は2,500円です。

一方で、最近になって電気を使い始めた西サモアの家族は、

「電気のない頃はよかった。電気代を払わずに済んだから」

とコメントしています。


キューバやボスニアでは、慢性的な食糧不足から、ベランダなどで野菜を栽培しています。

空き缶や鉢でキャベツやブロッコリーまで育てていると言うので、やればできるのだなと感心しました(野菜的に)。

楽しみ方が幾通りもあるこの写真集ですが、一番素晴らしいところは、プリミティブといえるような暮らしを送る国々の家族の持つ、姿の美しいツボやカゴ、古い農機具類を見ることができる点であると、私は主張したいと思います。

地球家族
(これはマリの家族のもちもの ©1994 Peter Menzel


それらがどんなに素晴らしいか、こんなエピソードが巻末に記されています。


撮影クルーがどうしても写真に収めたいものがありました。

それは調理に使っている陶器のツボで、ススがかかってはいるけれど美しい佇まいのツボでした。

しかしそれを撮ることは叶いませんでした。

「悪い印象を与えるから」という理由で、持ち主が拒否したのです。

「わたしたちの国ではこういうものは美術館に展示されるほどのものだ」と説明したけれど、持ち主が怒って部屋を出てしまい、それでお終い。


本人たちは気づかずに、ただ道具として無頓着に使っている道具が、他者によって価値を見いだされるというのは面白いと思う一方で、怖いなとも思います。

そのようにして国外へと失われた美術品が歴史上どれほどあったことか…。

それにしても、先祖代々使い馴らしたようなものには、道具ひとつひとつに個性がはいっているようで、いっそう美しさを増すように思います。

地球家族

(エチオピアの家族の持ち物一部)

 

さて話は変わりますが、アイスランドは30カ国すべてのなかで一番興味深かった国です。

イギリスの上の方にぽつんと浮かぶ島アイスランドは、国土の大半がツンドラと氷河に覆われていて木材が不足しています。

しかしその代わりに天然のサーマル・ヒート(マグマが地中の水層や地下水と接触すると超高温の熱が発生する仕組み)があって、このサーマル・ヒートが、地表の真下から際限なく流出しているので、暖炉や温水システムなどの熱源はこの自然の恵みからきています。

火力と原子力発電はなく、水力と地熱で賄っていますが、電気は極めて安価で、アイスランドにおける一人当たりの電力消費量は世界で第2位です(1994年)。

外は氷で覆われているのに、屋外の温水プールでは裸で泳ぐ人がいるという、なんとも奇妙でたくましいアイスランドなのでした。

それとアイスランドでは基本的に苗字がないとか、国民のほとんどがトライリンガル(英語・アイスランド語・デンマーク語)だとか・・・。

 

反対に興味の持てなかったのは、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、などのある程度豊かな国。
すべて想像の範囲内であるからでしょうか、おもしろくなかったです。

しかし逆に、そういう国の荷物と家族の集合写真を見ながら「これ要らないだろう」という物を勝手に選んでいく作業をしてみたところ、それはそれで楽しかったです。


いつか引越しの際に、自宅というか小屋の前に荷物を並べてみたくなります・・・

 

余談ですが、この写真集の撮影から8年後に家族たちを再訪して、前回の撮影時から増えた荷物を見せてもらう「地球家族2001」という企画もありました。

ボスニアでは内戦が終わり、ブータンでは電気がやってきたり、日本では持ち物の殆どが新しくなっている一方でモンゴルの家族が新たに手に入れたのはテレビ一台だけ・・・などと、それぞれの家族をとりまく環境は少なからず変化しているようです。

「地球家族」を製作した写真家のピーター・メンツェルさんが、2001年再訪時の「地球家族のその後」の写真をいくつか公開していましたので、リンクを紹介します。

マテリアルワールド2001 


1994年に出版されたときの写真のいくつかはこちらで見ることができます。

マテリアルワールド

30カ国全部を見ることはできませんので、写真集を手に取ることをおすすめいたします・・・

おんなじシリーズで世界の「食卓」の写真集もありました!

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